インチガワー蒸留所(Inchgower Distillery)|スコットランド・スペイサイドのスコッチウイスキー蒸留所

インチガワー蒸留所(Inchgower Distillery)は、スコットランド北東部スペイサイドのバッキー(Buckie)近郊に位置する蒸留所だ。1871年に創業し、現在はDiageoが所有している。Bell’s(Bell’s)ブレンデッドスコッチの重要な原酒として長く使われてきた実力派の蒸留所で、スパイシーかつ軽快なキャラクターを持つシングルモルトを産出する。

バッキー港に近いモーレイ湾岸という立地から、蒸留所の歴史には漁業・海運との関わりも色濃い。シングルモルトとして市場に出回ることは少なく、その希少性がウイスキー愛好家の関心を集め続けている。

特徴

スパイシーでドライなキャラクターが特徴的なスペイサイドモルト。Bell'sブレンデッドスコッチの核となる原酒として知られる。モーレイ湾に近い海洋性気候が熟成に影響し、ほのかな塩気と海風の香りが感じられることもある。

歴史

インチガワー蒸留所は1871年、ジョン・ウィルソン(John Wilson)によってバッキー近郊に設立された。もともとこの地には18世紀から密造蒸留の長い歴史があり、ウィルソンはその土地の蒸留の伝統を合法的に引き継ぐ形で蒸留所を建設した。創業当初から地域の農業資源と水源を活用し、着実に品質を高めていった。

1936年にアーサー・ベル&サンズ(Arthur Bell & Sons Ltd.)がインチガワーを買収し、その後長く同社の所有下に置かれた。Bell’sブレンデッドスコッチの重要な原酒として、インチガワーのスパイシーで軽快なキャラクターは不可欠の要素となっていった。1985年にギネス(Guinness plc)がアーサー・ベル&サンズを買収したことで、蒸留所は大企業グループの一部となり、後にユナイテッド・ディスティラーズ(UD)を経て現在のDiageo傘下に移行した。

現在もBell’sブレンドの原酒供給が主体で、シングルモルトとしての公式ボトリングはDiageoの「フローラ&ファウナ」シリーズと不定期の「スペシャルリリース」に限られる。希少性の高さから独立瓶詰業者(ボトラーズ)によるボトリングも多く、Gordon & MacPhailやSignatory Vintageなどがリリースを出すたびに注目を集める。

基本情報

正式名称 Inchgower Distillery
創業年 1871年
操業状況 稼働中
所有会社 Diageo
見学 不可能
公式サイト https://www.malts.com/en-row/distilleries/inchgower/
Wikipedia Wikipedia

蒸留所情報

蒸留器数 ポットスチル4基
蒸留方式 ポットスチル蒸留
モルト使用 ノンピート
水源 Menduff Hills(メンダフ・ヒルズ)の湧き水
熟成倉庫 ダンネージ式
年間生産量 約170万リットル/年
使用樽 エックス・バーボン
主力ジャンル ウイスキースコッチウイスキー
主要ブランド インチガワー

代表銘柄

所在地

イギリス
都道府県州 Moray
住所 Inchgower, Buckie AB56 5AB, UK
郵便番号 AB56 5AB

この地域について

スコットランド北東部、インヴァネスとアバディーンの間に横たわるスペイサイドは、全長172kmのスペイ川が灌漑する豊かな農業地帯だ。源流をモナドリアス山地のロッホ・スペイ(標高約300m)に持つスペイ川は、スコットランド第3の長さを誇り最も流れの速い川の一つで、ケアンゴームズ国立公園を抜けてモーレイ・ファース(Moray Firth)へと注ぐ。川が育む軟水とミネラルバランス、周辺農地の良質な大麦、ケアンゴームの泥炭——この三拍子が世界最高密度のウイスキー産地を形成した背景にある。スペイ川はまた「スペイキャスト」と呼ばれる独自のフライフィッシング技法の発祥地として知られ、サーモン釣りを求める世界中のアングラーを引き付ける英国随一の鮭川でもある。

1823年の消費税法(Excise Act)成立が密造横行の時代に終止符を打ち、翌1824年にジョージ・スミスがグレン・リヴェット渓谷で最初の合法免許を取得。モダン・スコッチ産業の礎を築いた。19世紀後半にグレート・ノース鉄道がスペイサイドに開通すると大麦・石炭・樽の輸送が一気に整い、各地で蒸留所創業ラッシュが起きた。現在も稼働する蒸留所はストラスアイラ(1786年創業・スコットランド最古の連続稼働蒸留所)からダフタウン、アベラワー、クレイゲラキまで50以上が密集し、2009年のスコッチウイスキー規則でスペイサイドが独立産地として正式認定された。

スペイ川岸に建つ16世紀のバリンダロッホ城(Ballindalloch Castle)はマクファーソン=グラント家が数百年にわたり居住し続ける生きた史跡だ。全長116kmのスペイサイド・ウェイはモーレイ湾の港町バッキーからケアンゴームズの奥地まで続くロング・ディスタンス・ウォーキングルートで、沿道には蒸留所見学スポットが点在する。英国唯一の現役樽職人工房スペイサイド・クーパレッジや7蒸留所を巡るモルトウイスキー・トレイル(全長99km)は、毎年5月に開催される「スピリット・オブ・スペイサイド・ウイスキー・フェスティバル」と合わせて54カ国以上のウイスキーファンを呼び込む。

現在スコットランド全体のシングルモルトの約50〜60%がスペイサイド産であり、世界で最も売れる2大シングルモルト——グレンリベットとグレンフィディック——がともにこの地に根を持つことが、スペイサイドを「ウイスキーの聖地」たらしめている。