ベン・ネヴィス蒸留所は1825年、「ロング・ジョン」の愛称で親しまれたジョン・マクドナルド(John ‘Long John’ MacDonald)によって英国最高峰ベン・ネヴィス山の麓、フォート・ウィリアム(Fort William)に創業された。身長6フィート4インチ(約193cm)という長身から「ロング・ジョン」と呼ばれたマクドナルドは、スコットランド西部のアーガイル(Argyll)を支配した氏族の末裔とも伝えられ、その名はやがてブレンデッドウイスキー「ロング・ジョン」ブランドに受け継がれることになる。彼の息子は蒸留所の近くに「ネヴィス蒸留所」を別途開設したが、30年ほどの操業の後に閉鎖されている。
20世紀に入ると幾度かの所有者交代を経て、1955年にはジョセフ・ホッブス(Joseph Hobbs)がベン・ネヴィスを取得した。ホッブスは連続式蒸留器(コフィースティル)とポットスティルを混在させるという独特のスタイルを採用し、伝統的なシングルモルトとグレーンスピリッツの両方を生産した。1981年に廃業したのち、1984年にはロング・ジョン・インターナショナルが再稼働させ、1989年にはニッカウヰスキーが約225万ポンドで買収した。これにより、スコットランドのシングルモルト蒸留所を保有した日本企業として国際的な注目を集めた。
ニッカによる買収後は設備が大幅に近代化され、伝統的なウォームタブ冷却装置を保持しつつ品質向上が図られた。同社の竹鶴政孝が確立した日本式ウイスキー製造哲学の影響を受けながらも、ウェスト・ハイランド特有の重厚でやや荒削りな個性は維持されている。蒸留所の水源はベン・ネヴィスの山腹から流れ落ちるアルト・モールリー川(Allt a’ Mhuilinn)で、ピート土壌を通過したミネラル豊富な水が使われる。代表銘柄「ベン・ネヴィス 10年」は2018年にIWSC(国際ワイン&スピリッツコンペティション)でトリプルゴールドを受賞するなど、その複雑でオイリーな個性が世界の専門家から高く評価されている。