産土 香子 六農醸は、農醸十二階位のうち六つを満たした産土香子の上位グレード。菊池川流域産米・無農薬・無肥料・生酛・木桶醸造に加え、⑥酵母無添加(蔵付き自然酵母)を採用する。添加酵母を一切使わず、蔵に棲みついた自然酵母だけで発酵させることで、熊本9号酵母の枠を超えた、蔵固有の個性が花開く一本だ。
六農醸の核心:酵母無添加という選択
日本酒の醸造において、どの酵母を使うかは風味を決定づける最重要要素のひとつだ。現代の日本酒蔵の多くは、杜氏が狙った風味を安定的に再現できる培養酵母を使用する。一方、六農醸は添加酵母を一切使わず、蔵に自然に棲みついた「蔵付き酵母」だけで発酵させる。
この方法は制御が難しく、年ごとにまったく異なる酵母の働きが生まれる可能性がある。花の香酒造があえてこのリスクを取るのは、香子という在来米が持つ本来の個性を最大限に引き出すためだ。蔵の微生物と米と水が自然に対話した結果としての酒は、計算された吟醸酒とは根本的に異なる「生きた酒」の魅力を持つ。
香子 六農醸の味わいの方向性
産土香子シリーズのコンセプトは「酵母ではなく米の香りを感じ、新たなペアリングの世界を楽しむ」こと。六農醸ではそのコンセプトが最も純粋に体現される。添加酵母が作る果実的なエステル香を排除することで、香子特有の米の香りがさらに前面に出てくる。
蔵付き酵母は熊本9号酵母とは異なる性質を持ち、アルコール発酵を比較的穏やかに進める傾向がある。これにより、13度というやや低めのアルコール度数の中に旨みが凝縮され、食事の邪魔をしない繊細な一本に仕上がる。
テイスティングノート
香り:香子特有の米の香りが主役で、吟醸酒に見られる酵母由来の果実香は控えめ。穀物のほのかな甘い香りに、木桶から溶け出す自然な杉のニュアンスが加わる。蔵付き酵母由来の乳酸的な清涼感が、全体を清潔でありながら複雑な香りにまとめている。
味わい:口に含むと、米の旨みが静かに広がる。人工的な甘さや果実感は少ないが、その代わりに素材そのものの深みと滋味が感じられる。木桶醸造と蔵付き酵母の組み合わせが生む独特の複雑さが、シンプルに見えて奥行きのある味わいを形成している。生酛の酸が綺麗にバランスを取り、重くならないよう全体を引き締める。
余韻:余韻は比較的長く、米の香りが静かに持続する。後口には清潔な旨みと程よい苦みが残り、次の料理を誘うように消えていく。酵母無添加ならではの「作為のない」フィニッシュが印象的だ。
食との相性
添加酵母由来の強い果実香がないため、料理の風味と正面からぶつかりにくい。白身魚・貝類・青菜のおひたしなど、素材の繊細さを大切にした料理との相性が際立つ。また、熟成した豆腐や発酵食品との組み合わせでは、蔵付き酵母由来の複雑なニュアンスが共鳴する。
酒
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