アラン島南部のキルモリー地区に2019年6月、約180年ぶりに復活した「ラグ蒸留所」。アラン島北部のアラン蒸留所(ロクランザ)を擁するアイル・オブ・アラン・ディスティラーズ社が設立した姉妹蒸留所であり、同じ島内でありながらまったく異なるスタイル——ヘビーピーテッド——を専門とする施設として誕生した。蒸留所のある南部は島内でも特に野生的な自然が残るエリアで、その環境がウイスキーのキャラクターにも色濃く反映されている。
キルモリーエディションはラグ蒸留所初の公式コアレンジとして2022年にリリースされた記念碑的な1本。ボトル名はアラン島南部を流れる川の水源地「キルモリー」に由来し、蒸留所が立地するエリアそのものへのオマージュが込められている。55ppmという高いフェノール値のピートモルトを100%使用し、バーボンオークカスクのみで熟成することで、ピートスモークと甘やかなバニラ・フルーツのコントラストを最大限に引き出している。ノン・チルフィルタリング・無着色・46%ABVでのボトリングも特筆すべき点だ。
蒸留所の開業から3年という比較的若い熟成期間でありながら、各種品評会でその品質が高く評価された。インターナショナル・スピリッツ・チャレンジ(ISC)2023では金賞を獲得。スコッチウイスキー全体のなかでも「ヘビーピーテッド」ながら「フルーティーでアクセスしやすい」というラグ独自のスタイルは、アイラモルトとは一線を画する特徴として専門誌・愛好家双方から高い評価を受けており、スコッチウイスキー市場における新世代アイランドモルトの旗手として注目を集めている。
2022年の発売直後は需要が供給を大幅に上回り、日本市場でも定価の2〜3倍のプレミアムがつく局面があった。アラン島という小規模産地から生まれた限定感と、蒸留所開業時からの熱狂的なファンコミュニティが後押しした形だ。現在はラグ蒸留所のエントリー・フラッグシップとして安定供給が進んでいるが、姉妹ボトルのコリークラヴィーエディション(シェリーフィニッシュ)と並ぶかたちでアラン島産ヘビーピーテッドウイスキーの代表格としての地位を確立している。
テイスティングノート
香り
ヘザーの煙とピートスモークが最初に広がり、続いてバニラビーン、バナナ、青リンゴなどの若々しいフルーツ感が顔を出す。背景にはレモンの皮のような柑橘系の爽やかさと、ほのかに海辺を感じさせる潮気を伴った磯香がある。全体的に穏やかなスモークの中に甘やかさが同居する、親しみやすいアイランドモルトの香り立ちだ。
味わい
まず口中にやわらかなオイル感が広がり、バニラアイスクリームのような甘さとピートスモークの旨味が交互に主張する。シトラスのほのかな酸味とホワイトペッパーのスパイス、チャーオークからくる微かなコーヒービターが複雑さを加える。全体を通じてアイラ系ほどの攻撃的なピート感はなく、むしろなめらかで円やかな印象が強い。
余韻
中程度の長さで続くスモーキーな余韻は、徐々に甘みと柑橘系の後味に移行していく。レモンピール、アップルの果皮感、そしてほんのりとした海塩の風味が重なり合い、時間が経つにつれてホワイトペッパーのスパイスがじんわりと長引く。ヘビーピーテッドらしい余韻のしっかりした輪郭と、バーボンカスク由来の柔らかな甘みが共存するバランスの良い後口だ。
酒
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