富士御殿場蒸溜所は、キリンビール・シーグラム社・シーバスブラザーズの3社合弁で1972年に設立されたキリンディスティラリー株式会社が、1973年に静岡県御殿場市に竣工させたウイスキー蒸溜所。富士山の麓、標高約620メートルの高原に位置し、夏でも冷涼な気候と年間を通じた霧の多さが、ゆったりとした熟成をもたらしている。仕込水には地下100メートルから汲み上げる富士山の伏流水(硬度約55度の極軟水)を使用しており、この水質が酒質の柔らかさと繊細さの礎になっている。
モルトウイスキーとグレーンウイスキーの両方を製造できる国内有数の総合蒸溜所であり、シーグラム流のグレーン製造技術とシーバスブラザーズ直伝のモルト製造ノウハウを同時に受け継いだ点が大きな強みである。原酒の樽詰め度数を50.5%に抑えるなど、独自のルールで熟成をコントロールしてきた。2021年以降は木桶発酵槽の追加や蒸留器の増設も進め、生産量・バリエーション両面での強化が図られている。
長年「富士山麓」シリーズや「陸」ブランドでジャパニーズウイスキーファンに親しまれてきた。近年はシングルモルト「富士」が国際的なコンテストで相次いで受賞し、世界的なクラフトウイスキーブームの中でもひと際高い評価を獲得している。2023年には操業50周年を迎え、半世紀にわたる積み重ねが品質に結実した蒸溜所として国内外の専門家から強い注目を集めている。