伊佐美(いさみ)は、鹿児島県伊佐市大口に蔵を構える甲斐商店(株式会社甲斐商店)が醸造する芋焼酎の傑作である。明治37年(1904年)創業の老舗蔵元が、「伊佐美」ただ1銘柄に全力を注ぎ込んできた一点突破の姿勢は、日本の焼酎界において唯一無二の存在感を放つ。
伊佐市(旧大口市)は焼酎の聖地として知られる土地だ。郡山八幡神社には日本最古の焼酎に関する記録(永禄2年、1559年)が残されており、「焼酎発祥の地」と称される。この由緒ある土地で生まれた伊佐美は、本格焼酎ブームが到来する2000年代以前から鹿児島の地元でさえ入手が困難な幻の焼酎として愛好家の間に口コミで広まった。「幻の焼酎」と呼ばれたのは品薄であるからにほかならず、その希少性は蔵元が大量生産を拒み、昔ながらの手仕事を守り続けたことの証でもある。
伊佐美の原料は、鹿児島産の黄金千貫(コガネセンガン)という品種の芋。甘みと旨みが強く、芋焼酎の王道原料として名高い。製法は黒麹(くろこうじ)を使った並行複式発酵で、かめ壺(甕壺)を用いた一次仕込みを守り続けている。黒麹由来のクエン酸が発酵中の雑菌繁殖を防ぎ、力強いコクと引き締まった後口のキレを生み出す。熟成は常圧蒸留で行われ、芋の個性を最大限に引き出す伝統的な手法が貫かれている。
伊佐美はプレミアム芋焼酎の草分け的存在として、「3M(森伊蔵・魔王・村尾)」が脚光を浴びる以前から焼酎愛好家に熱狂的に支持されてきた。定価で購入することが困難なプレミア銘柄として、現在でも専門酒販店やオークション市場では定価以上の取引が頻繁に見られる。その骨格のある力強い芋の風味と黒麹由来のコクは「昔ながらの本物の芋焼酎」を求める愛好家に高く評価されており、鹿児島の誇る焼酎文化の象徴的存在だ。
テイスティングノート
香り
濃厚な芋の甘い香りが立ち上り、蒸かした黄金千貫の素朴な土っぽさとほのかな黒麹の酸味が重なる。奥には深みのある発酵香と麹の花のような甘い香りが漂い、鹿児島の本格焼酎らしい野太い個性を主張する。
味わい
口に含むとまず凝縮された芋の旨みと甘みが広がり、続いて黒麹由来のほどよい酸味がキリリとした骨格を与える。力強くも繊細な味わいで、芋の甘さとコクが口中をゆっくりと満たす。アルコール感はしっかりしていながらも荒々しくはなく、熟練の手仕事が生み出す滑らかさが特徴。
余韻
余韻は芋の旨みとほのかな黒麹の酸、そしてキレのある爽快感が続く。長く続く余韻の中に芋のニュアンスが重なり合い、飲み飽きない複雑さを見せる。お湯割りにすると香りが一層開き、芋のおおらかな甘みと黒麹の清潔感ある風味が際立つ。
酒
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