クー・ボカン オリジナル(Cù Bòcan Original)は、スコットランド・ハイランド地方トマーティン蒸留所が生み出す軽量ピートシングルモルトスコッチウイスキーのオリジナルエディションである。「クー・ボカン」とはゲール語で「亡霊の犬(Phantom Dog)」を意味し、トマーティン蒸留所が位置するハイランドの村に伝わる幽霊犬の伝説に由来する。煙と一体化して消えてしまう不思議な黒い犬の逸話が、このピーティーなウイスキーの名前とキャラクターにぴったりと重なる。
クー・ボカンの始まりは2005年にまで遡る。毎年冬の1週間だけ、トマーティン蒸留所は通常のノンピートモルトに代えてピートモルト大麦(15ppm)で蒸留を行い、その液体を専用の樽で熟成させてきた。この年一度の季節的な蒸留儀式は、2019年の「シグネチャー」リブランドによりレギュラー商品として世に広まるまで続けられた秘密の実験的な取り組みであった。2013年、初のオフィシャルリリースとしてボトリングされたクー・ボカンは、バーボン樽・オロロソシェリー樽・バージンオーク樽という3種の樽で熟成された原酒をヴァッティングした革新的なハイランドモルトとして登場し、業界に衝撃を与えた。
ピートモルトウイスキーとして15ppmという比較的穏やかなフェノール値に設定されており、アイラ島の重厚なスモーキーモルトとは一線を画す繊細さが持ち味だ。バーボン樽由来のバニラとキャラメルの甘さ、シェリー樽のドライフルーツと深みのある色合い、バージンオークのウッドスパイスが三つ巴で香味を形成し、スモークはその全てを包み込む薄いベール程度に留まる。この「軽やかに漂うピート」という個性が愛好家を魅了し、ハイランドモルトの新しいカテゴリを開拓した。
クー・ボカンは数々の権威ある賞を受賞している。2023年には旗艦商品であるシグネチャー版がサンフランシスコ・ワールドスピリッツ・コンペティション(SFWSC)でダブルゴールドを獲得。2022年にはハイランズ・アンド・アイランズ・フード・アンド・ドリンク・アワードでベストウイスキー賞を受賞。さらに2024年のワールドウイスキーアワーズ スコットランド部門ではクー・ボカン12年熟成 バッチ#1が「12年以下ベストシングルモルト」の栄誉に輝いた。また2025年にはトマーティンがピート蒸留20周年を記念した特別エディションを発売し、その独自の地位を改めて内外に示している。
テイスティングノート
香り
薄くデリケートなスモーク、ヌガーやトフィーの甘さ、シェリー樽由来のわずかなレーズンとダークチョコレートが重なる。奥にバニラクリームと湿ったヒース(エリカ)の土っぽい香りが漂い、ハイランドの野趣を感じさせる。
味わい
スムーズで柔らかい口当たり。ハチミツとキャラメルの甘みが最初に広がり、バーボン樽由来のバニラとともにドライフルーツ(プルーン・レーズン)の風味が続く。バージンオークのウッドスパイスとピートスモークがバックグラウンドに控え、複雑さと親しみやすさを同時に演出する。
余韻
中程度の長さ。スモークとウッドスパイスがゆっくりと引いていき、最後にバニラとビターチョコレートの甘苦い余韻が静かに続く。温かみのあるフィニッシュで、寒いハイランドの夕暮れを思わせる風情がある。
酒
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